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インセプションのロバートがかわいそう!影の主人公である理由

夢の世界を具現化した映像美と複雑なストーリーで注目を集めた映画、インセプション。

その中で、独占企業を解体するためという大義のもと、勝手に潜在意識の中に入りこまれる、一見するとかわいそうなロバート・フィッシャーですが、実は主人公らしい道を辿っています。本記事では、そんなかわいそうキャラであるロバートが、影の主人公である理由をお話します。

 

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ロバート・フィッシャーはどんな人物?

ここからは、ロバート・フィッシャー(以下ロバート)を中心に話を進めていきます。

ロバートは、父親であるモーリス・フィッシャーが経営するエネルギー複合企業の副社長で、後継者です。物質的には誰よりも恵まれている、いわゆる成功者ですが、心には大きな問題を抱えています。

 

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かわいそう?ロバートが抱える心の問題

ロバートは、誰もが羨むような成功者でありながら、幸福度という意味では低いと考えられます。その理由は、父親との関係にあります。

 

エネルギー産業の世界半数のシェアをもつ、複合企業の会長である父親は、ロバートが11歳で母親を亡くしたときも「ロバート、話すことは何もない」の一言で終わらせてしまったような人物で、親の愛情を受けられないまま成長したロバートは、偉大すぎる父親を超えられない、自分は父親を失望させているという思いを抱え、一方で父親に認められたいという、屈折した愛情をもっています。父親を憎み切ることもできず、かといって素直な愛情を示すこともできていません。

 

そのため、父親が亡くなる間際に枕元に呼ばれ、息も絶え絶えの言葉の中で、唯一聞こえたのが「失望した」だったことから、やはり父親は自分に失望していたのだと受け取り、父親に死によって、二度と認められることもないという絶望を抱えることになります。

 

父親の本音がそこに? 金庫と遺言状の存在

父親の葬儀のためにロスアンジェルスに向かう飛行機の中で、ロバートは鎮静剤入の水を飲まされ、コブたちが待つ夢の第一階層に落ちていきます。

 

大雨が降る街中でタクシーを拾ったロバートは、わけもわからないまま銃を突きつけられ、倉庫のような場所に連れて行かれます。ここまで、頼りないお坊ちゃんに見えているロバートですが、こういう状況も想定した訓練を受けているのか、誘拐で保険金が一千万ドル(今だと約14億円)下りる、身代金としては十分だろう、という態度を取ります。

 

しかし、犯人(コブたち)の目的は違います。表面的には父親が隠している金庫のことを聞き出そうとしていますが、本当の目的は、金庫があるという事実と、金庫の中には遺言が入っているということを、ロバートに意識させることです。

 

金庫のことなど知らないロバートは戸惑いますが、ここで父親の右腕だったピーター・ブラウニングに変装したイームスが登場します。ブラウニングは、ロバートを主人公として見たときには、物語の悪役となる存在です。

 

先に捕まって拷問されていたというブラウニングは、ロバートに金庫と遺言のことを話します。

父親の最期の言葉は「おまえには失望した」だと思っていたロバートは、金庫の中の遺言には、あのとき聞き取れなかった言葉のすべてが書かれているのかもしれない……そんな考えが頭に浮かんだと思われます。

 

これは、コブたちにとっては第三階層でインセプションを成功させるための重要な布石となりますが、ロバートにとっても、ずっと抱えている心の問題を解決するためのキッカケとなります。また同時に、自分も知らない、息子に宛てられた遺言状の中身を知っているブラウニングに対して、かすかな疑念が芽生え、それは第二階層で反映されます。

 

 

ブラウニングへの疑念と真実への渇望

第二階層にやってきたロバートは、バーで金髪の美女と飲んでいます。これは、潜在意識を武装しているロバートを油断させるために仕掛けたイームスの変装であり、そこにコブが現れます。

 

コブは、自分は抜き取り屋からあなたを守る警備主任、チャールズだと名乗り、ここは夢の中で、抜き取り屋が情報を狙っているから、守るために自分に従ってほしいと言ってきます。おそらくはおぼろげながら、第一階層で誘拐されたことを覚えていたこと、周囲にいる怪しい男(実は彼らこそロバートの警備なのですが)を見て状況を察し、ロバートはコブに、守ってくれと言います。

 

トイレに逃げ込み、追ってきた警備をコブが倒すと、ここに来る前のことを思い出してほしいと言われます。倉庫に監禁されたのが現実だと思っているロバートは、数字を聞かれたと言い、コブはそれを自分の都合のいいように誘導し、ホテルの部屋番号かもしれないと、ロバートが口にした番号の部屋に向かいます。

 

コブが仲間だと言うアーサー、アリアドネと合流し、部屋に入ると、アーサーが標的を夢の中に潜らせる装置を発見します。コブが、誰かがあなたの夢のさらに深くに入り込んで、情報を盗もうとしている、そう言ったとき、ブラウニングが部屋に入ってきます。

 

ピーター……ロバートは驚きます。このブラウニングは、第一階層で芽生えた疑念が生んだもので、イームスの変装ではありません。そのため、このブラウニングの言葉には、ロバートの心理が反映されています。

 

まさか君が黒幕なのか? その問いかけにブラウニングは、会社は私のすべてだ、潰させないぞと言います。ブラウニングが夢の中に入り込んで数字を抜き取り、遺言状を始末しようとしているという疑念から言葉で、第一階層でイームスが変装したブラウニングに吹き込まれた、金庫と遺言状のことが反映されていると思われます。

 

続けて、遺言状は父親からの挑戦状で、自分の力で何かを成し遂げろ、親に頼るないう意味だと告げられると、やはり父は失望していたか……そう漏らしますが、ブラウニングは続けて、そうじゃない、父親以上の会社を作れると口にします。これはおそらく、ロバートの心理、そうあってほしいという思いを反映したものだと思われます。

 

ロバートにとって、これは良いことですが、コブたちにとっては都合が悪い話です。父親が築いた巨大複合企業を潰させることが目的なのに、より強大な敵を生み出してしまっては、インセプション計画は失敗になります。コブはすかさず「いいですか、これは嘘です」と言い、彼の夢の中に入って確かめましょうと提案します。

 

ロバートは、真実への渇望から提案を受け入れます。実際には、第三階層はブラウニングではなくイームスの夢であり、最終的に演出される親子関係の修復というシーンを、ロバートが自分の都合のいいように作り出したものではなく、長年父親の右腕として仕事をしてきたブラウニングが知る父親が残した遺言という形にするために用意された舞台ですが、ロバートは真実を知るために、これまで見せることのなかった積極的な姿勢で、第三階層へ向かいます。

 

 

インセプションによってもたらされた親子関係の解決

第三階層に潜ったロバートは、サイトーやイームスの助けを借りながら、父親の遺言がある金庫にたどり着きますが、あと一歩のところで、コブの潜在意識が作り出したモルの凶弾に倒れ、虚無へと落ちてしまいます。

 

虚無に落ちたロバートを助け、インセプションを成功させるために、コブとアリアドネは虚無に潜り、ロバートを見つけて救出、コブはここで、自身のトラウマと向き合い、ついに現実を受け入れることになります。

 

第三階層に戻ったロバートは、イームスに見守られながら、父親が待つ最後の扉を開け、中に入ります。現実と同じように、息も絶え絶えに言葉を発する父親の枕元まで行くと、ロバートは「分かってる。おまえには失望した、父さんは超えられない」と言います。すると父親は首を横に振り、「違う。失望したのは、わしを真似るからだ」と、金庫を開けるよう促します。

 

金庫を開けると、そこには遺言状と一緒に、紙で作った風車が入っていました。この風車は、子供時代のロバートにとって唯一の父親との思い出であり、父親もそれを覚えていてくれたのだという思いから、自分は愛されていないわけではなかった、失望されていたわけでもなかった、自分の道を進めばいいんだ、という結論に至ります。

 

インセプションの前提知識

ロバート・フィッシャーを影の主人公として話を進める前に、前提知識として、映画のあらすじ、主な登場人物、専門用語について解説します。

 

1、映画のあらすじ

主人公のコブは、標的の夢の中に侵入し、隠された情報を盗み出す、エクストラクトと呼ばれる産業スパイです。

腕のいいスパイとして知られていましたが、妻殺しの容疑で国際指名手配犯となり、子供とも会うこともできず、仕事の失敗により、依頼主からも命を狙われることになります。

 

しかし、コブの有能さに目をつけた日本の実業家であるサイトーが、ある仕事を依頼してきます。それは、競合であるモーリス・フィッシャーのエネルギー複合企業を潰すことであり、方法は、病気で先が長くないモーリスの息子で、後継者でもあるロバート・フィッシャーに、父親が築いた"帝国"を解体させるアイデアを植え付ける(インセプション)というものでした。

 

コブのパートナーであるアーサーは、不可能だと言って断り、コブも一度は断りますが、サイトーの「仕事を成功させたら犯罪履歴を消して家に帰す」という言葉に動かされ、仕事を引き受けます。

 

インセプションを成功させるために、コブは必要な仲間を集め、サイトーの協力も得て、仲間たちとともにロバートの潜在意識の中に入り込むことに成功しますが、ロバートはコブのような産業スパイから情報を守るため、潜在意識を武装する訓練を受けており、襲撃に遭ったコブたちはなんとか凌いだものの、サイトーは重傷を負ってしまいます。

 

もし彼が死ねば、家に帰ることは不可能になるコブは、自身が抱える心の問題や数々のトラブルに見舞われながらも、家に帰るという目的のために、仲間とともに困難を乗り越え、インセプションは成功させ、子どもたちのもとへ……というのが、あらすじとなります。

 

 

2、主な登場人物

主な登場人物は以下のとおりです。

 

ドミニク・コブ

インセプションの主人公で、夢の中に侵入し、隠された情報を盗み出す産業スパイです。彼の過去には家族に関するトラウマがあり、それは物語の重要な要素になっています。

 

アーサー

コブが信頼する仲間で、インセプション計画に協力します。彼は計画の実行における要の一人で、予期せぬトラブルにも冷静に対応します。

 

アリアドネ

コブの義父である教授の教え子で、設計者として、夢の中での建物や環境を創り出す役割を担います。

 

イームス

コブの仲間で、変装や標的の懐に入り込んで情報を収集する能力に長けた人物です。チームの一員として、インセプション計画に参加します。

 

サイトー

日本の実業家で、コブにインセプションの依頼をした人物です。巨大すぎる競合企業を潰すことが目的であり、依頼成功を確かめるために、チームの一員としてインセプション計画に参加します。

 

ユスフ

薬剤師で、夢を安定させるために必要な鎮静剤の調合を請け負い、チームの一員としてインセプション計画に参加します。

 

ピーター・ブラウニング

ロバートの名付け親であり、ロバートの父親、モーリス・フィッシャーの右腕ともいえる存在です。病気のモーリスに代わって会社の実権を握っており、インセプション計画成功のための要として利用されます。

 

ロバート・フィッシャー

インセプション計画の標的です。父親が築いた会社の副社長であり、後継者ですが、父親との間に問題を抱えています。

 

 

3、専門用語

インセプションには、いくつか専門用語が登場します。本記事で必要なものだけに絞って簡単に解説します。

 

インセプション

潜在意識に標的が自分で考えたと思い込むアイデアを植え付けることです。

 

エクストラクト

他人の夢の中に潜入してアイデアを盗み出す技術のことです。

 

潜在意識を武装する

コブのような産業スパイから情報を守るために、夢の中で抜き取り屋を倒すための部隊をもつことです。ロバートはこの訓練を受けています。

 

キック

夢の中にいる人を目覚めさせることです。

たとえば、座っている椅子が倒れるなど、平衡感覚を意図的に乱すことで、夢から覚めることができます。キック一回で夢の階層を一つ上がるので、第二階層でキックした場合は第一階層に戻ります。現実に戻るためには、第一階層でのキックが必要になります。

 

夢の階層

コブたちが潜る夢には、階層が存在します。深くなるほど夢は不安定になり、時間の流れも変わっていきます。夢の階層は1~3階層まであり、現実世界の10時間が、第一階層では一週間になり、第二階層では六ヶ月になり、第三階層では十年になります。

階層を下っていくには、一階層につき一人、ドリーマーと呼ばれる夢の主が必要です。

 

虚無

第三階層よりさらに下にある、行くというより落ちる場所です。ですが、意図的に行くことも可能で、コブと妻のモルはかつて虚無まで行き、そこで自分たちだけの世界を作り上げました。本来は何もない空間ですが、落ちた者が何かを残していれば、それは時間が経っても残っているため、クライマックスで描かれる虚無には、コブとモルが作ったビルなどの建物が見られます。

 

新しい日常

ファーストクラスの椅子で目覚めたロバートは、夢の中で体験したことを覚えてはいません。しかし、ずっと心にあった霧が晴れたように、その顔には、飛行機に乗りこんだときとは違う、かすかではありますが、明るさが見て取れます。

 

ロバートがその後、会社をどうしたのかは分かりません。ただ一つ言えることは、ロバートの中に芽生えたアイデアが、たとえ他人から植え付けられたものだったとしても、「自分の道を行く」という結論をキッカケとして、ずっと抱えていた内的問題を解決し、物質だけではなく心の幸福も手に入れたという意味では、ロバートにとっては良いことだったのではないかと思います。

 

ロバートはこの先、会社を潰すまでいかないまでも、ブラウンニングと対立して規模を縮小させてしまうかもしれませんし、協力してもっと大きくするかもしれません。しかしどちらのなるにしろ、ただ父親の後を継ぐでもなく、ネガティブな理由で動かされるでもなく、自分の道を行くというポジティブな信念をもって歩いていく以上、幸福であると思います。

 

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結論、ロバートはかわいそうなだけではない

問題を抱え、あがき、葛藤し、乗り越えて新しい日常を手に入れるというのが、王道のストーリーの主人公が通る道です。そういう意味では、ロバートは主人公であるコブよりも主人公らしい道を歩き、与えられたものとはいえ、心の問題を解決して新しい日常を手に入れたと言えます。そう見ると、かわいそうなロバートとは単純に言えないのではないでしょうか。ぜひ、ロバートを主人公としてインセプションを見直してみてください。

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